東京簡易裁判所 平成9年(ハ)24212号 判決 1998年5月27日
原告
佐藤美智男
被告
最上建設株式会社
右代表者代表取締役
小林将美
主文
一 被告は原告に対し、四万九〇六七円及びこれに対する平成八年五月一七日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その一を被告の各負担とする。
四 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は原告に対し、一一万一七〇〇円及びこれに対する平成八年五月一七日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 請求原因の要旨
1 被告は、平成七年一一月七日、原告と作業内容は土木工事、賃金は日給一万四〇〇〇円とするとの内容で雇用契約を結び、同日から同八年四月二二日まで一二八日間、被告会社で稼働した(当事者間に争いがない)。
2 ところで、原告は右期間中、平成七年一一月一一日、二三日、二五日、一二月九日、二三日、二四日、同八年一月一三日、一五日、二一日、二七日、二月一〇日、一二日、二四日、三月三日、九日、二〇日、二三日、四月一三日の計一八日間、休日出勤して作業した。また、同年三月二六日には七時間三〇分の残業(時間外勤務)をしたが、その際、夜一〇時から一二時まで深夜勤務して作業した。更に、同年四月一三日、一五日及び一八日には、いずれも夜勤(作業時間は夜八時から翌朝五時まで)をし、加えて残業もした(当事者間に争いがない)。
そこで、原告は被告に対し、右休日勤務手当金として八万八二〇〇円、深夜割増賃金として一三〇〇円、時間外勤務(夜勤を含む)手当として八二〇〇円及び帰任旅費として一万四〇〇〇円の計一一万一七〇〇円の支払を求める。
二 被告の主張
1 本件については、平成八年一二月一〇日、東京簡易裁判所において成立した原、被告間の和解によって、すでに解決ずみである。
したがって、被告は原告に対して何ら金銭の支払義務はない。
2 休日勤務手当については、平日のうち、雨天等で休んだ日を正規の休日と振り替えるという約定だったので、別にこれを支払う旨の契約はしていない(<証拠略>によれば、被告会社の就業規則で、休日を他の日に振り替えることができる旨規定されていることが認められる)。
なお、平成七年一二月二九日、同八年一月五日、三月一日、三月二二日、四月一一日、一六日、一七日、一九日の計八日は、平日であるが、雨天等の理由で休みとしたので、これを休日と振り替えている。したがって、仮に、被告に休日勤務手当を支払う義務があるとしても、それは原告の主張する一八日から右の八日を差し引いたその余の一〇日分についてである(この点については、当事者間に争いがない)。
3 夜勤手当については、原告は被告と一回につき二五〇〇円を支給するということで合意しており、その約定どおり支払っている。
4 帰任旅費については、六か月以上勤務した場合に支給するという約定であった。しかし、被告は六か月勤務しないうちに退社したので、原告にはこれを支払う義務はない。
三 争点
1 本件は、別件の和解によって既に終了しているか。
2 原告の主張する手当金の未払分が存在するか。存在するとすれば、その金額はいくらか。
第三争点に対する判断
一 争点1について
証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、被告の主張する和解は、原告の被告に対する解雇予告手当金請求事件について両者間に成立したものであるが、その和解条項を検討してみても、本件のような未払賃金についての問題をも含めて解決したものとは明らかに認められない。
したがって、被告の主張は採用することができない。
二 争点2について
1 原告会社の就業規則(<証拠略>)の第一五条によれば、時間外、休日及び深夜の各勤務手当については、実働一時間につき、基本給から算出した時給の二割五分の割増賃金を支給するものとされている。
そうだとすると、右各手当についての当事者間の契約は、右規則に反する限度では無効であり、これがない場合には、右の規定に従って考えるべきである。
2 そこで、各手当について、分けて検討する。
(当該事実が証拠により認められる場合は、認定に用いた証拠をその末尾に略記する。)
ア 休日及び時間外勤務手当について
原告は、前記認定のとおり、一〇日間の休日勤務をしたが、その賃金としては、いずれも約定の平日分の支給を受けただけで、休日割増金の支給は受けていない(<証拠略>、原告)。
また、原告は右一〇日のうち、平成七年一一月一一日に〇・五時間、二五日に一時間、一二月九日に一時間、二四日に三時間、同八年二月一二日に一・五時間、二四日に一・五時間、三月二〇日に〇・五時間、二三日に二時間、四月一三日に二時間の合計一三時間の残業をし、その手当として被告から一時間当たり二一〇〇円の割合で、その支給を受けている(<証拠略>、原告及び被告)。
そうすると、原告が本来、支給を受けるべきであったその賃金は、別紙計算書記載のとおり、二〇万三四三七円となるべきところ、原告が被告から実際に支給を受けたのは一六万七三〇〇円であるから、その差額三万六一三七円が未払分として残っていることとなる。
イ 時間外(夜勤を含む)及び深夜手当について
原告は、平成八年三月二六日には午後五時から七・五時間の残業(そのうち、五時間は時間外勤務、二・五時間は深夜勤務)をし、また、同年四月一三日、一五日及び一八日の三日にわたり夜勤(そのうち、計六時間は時間外勤務、計一八時間は深夜勤務)をし、更にその間、計三・五時間の残業をした(<証拠略>、原告)。
ところで、深夜勤務の場合には、時間外労働が深夜に及んだ場合であるから、その賃金は、実働一時間につき、基本給から算出した時給の五割増となるものと解すべきである(<証拠略>)。
そうすると、いずれも別紙計算書記載のとおり、原告が本来、支給を受けるべきであった賃金は、三月二六日分としては一万七四九九円であるところ、実際に支給されたのは一万五七五〇円であったから、その差額一七四九円が未払分となり、また、四月一三日、一五日及び一八日分として原告が本来、支給を受けるべきであった賃金は六万八〇三一円であるところ、実際の支給額は五万六八五〇円であったから、その差額一万一一八一円がその未払分となる。
そこで、右ア、イの手当金の未払分を合計すると、四万九〇六七円となる。
ウ 帰任旅費について
帰任旅費については、六か月以上勤務した場合に支給する旨の約定であったことが認められる(<証拠略>、被告)ところ、原告が被告会社に勤務開始後、六か月を経過する前に退職したことは、当事者間に争いがない。
そうすると、帰任旅費の支払を求める原告の請求は理由がないというべきである。
三 結論
以上によれば、原告の請求は、未払賃金として四万九〇六七円の支払を求める限度では理由があるからこれを認容し、その余の部分については理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 熊谷弘)
別紙 計算書
1 休日及び時間外手当について
A 本来支給されるべき金額
14000÷8×1.25×8×10=175000(円)―<1>
14000÷8×1.25×13=28437―<2>
<1>+<2>=203437
B 実際に支給を受けた金額
14000×10+2100×13=167300―<3>
よって,差額は <1>+<2>-<3>=36137―a
2 時間外及び深夜手当について
3月26日分
A 本来支給されるべき金額
14000÷8×1.25×5=10937―<4>
14000÷8×1.5×2.5=6562―<5>
<4>+<5>=17499
B 実際に支給を受けた金額
2100×7.5=15750―<6>
よって,差額は <4>+<5>-<6>=1749―b
4月13,15,18日分
A 本来支給されるべき金額
14000÷8×1.25×2×3=13125―<7>
14000÷8×1.5×6×3=47250―<8>
14000÷8×1.25×3.5=7656―<9>
<7>+<8>+<9>=68031
B 実際に支給を受けた金額
16500×3+2100×3.5=56850―<10>
よって,差額は <7>+<8>+<9>-<10>=11181―c
以上合計 a+b+c=49067